徳島地方裁判所 昭和34年(行)5号 判決 1960年2月22日
原告 篠原雅一
被告 川島町選挙管理委員会
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
原告は、「被告が川島町長解職並びに川島町議会の解散請求に関し、昭和三十四年八月十五日なしたリコール取下は有効である旨の決定は、これを取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として
一、原告は、川島町長笹本初太郎解職並びに川島町議会の解散請求の代表者となつて川島町の有権者二千七百八十二名の署名を収集し、昭和三十三年十一月四日右署名簿の証明を求めるため被告委員会に提出したところ、被告委員会はその証明を終了したがその縦覧期間内に川島町議会から署名簿の署名に関し異議申立がなされ、その審理中訴外水田房次郎及び当時の被告委員会委員長宮本仁平が個人として仲裁人となり、右請求の取下げ、町議会の自主的善処(解散を意味する)を和解条件とし、了解事項として町議会解散の時期は昭和三十四年三月末とし町議会解散と同時に適法に請求取下の手続をする旨の示談が同年一月三十一日成立した。
二、原告は、取下書を右水田、宮本の両名に預けておいたが、取下の事実はないのに、被告委員会書記飯田治は、被告委員会の決議もなく委員長の命令もないのに勝手に同年二月二日付を以つてリコール取下のあつた旨告示した。
三、原告は直ちに被告委員会に対し右告示は無効であるとして異議申立をした結果、被告委員会は同年七月三日前記告示は無効である旨決定し、その旨告示した。
四、しかるに、被告委員会は更に川島町議会から異議申立があつたので、同年八月十五日右告示を取消し、リコール取下は有効である旨決定し、同月十八日その告示をし、同年九月三日付川選一三一号を以つて原告にその旨通知した。
五、右七月三日付決定に対しては行政訴訟による外不服申立をなし得ないにも拘らず、川島町議会の異議申立により、真実取下の事実がないのに右のような決定をしたのは違法である。そこでこれが取消を求めるため本訴に及んだ。とかように述べ、被告の本案前の抗弁に対し、被告委員会の右決定は一の行政処分とみるべきものである、原告はもとより川島町長解職並びに川島町議会解散請求の代表者として出訴しているものであり、本訴は適法であると述べ、尚川島町議会議員の任期は昭和三十五年二月十日を以つて満了するが、その大半は昭和三十四年十二月末を以つて辞職し議席を存するのは三名のみであると付陳した。(立証省略)
被告は、本案前の抗弁として
一、地方自治法においては町長解職並びに町議会の解散請求に関し署名簿の署名に関する出訴を許容した以外に町選挙管理委員会を相手方として個人の出訴を許容した規定はない。
二、仮に右が許容されるとしても、本件訴訟の対象物は単なる事務的事項であつて行政事件訴訟特例法第二条にいう行政処分ということはできないし、原告は解職並びに解散請求代表者なる旨冠称していないから個人として出訴しているものであり、仮にそうでないとしても当時の代表者湯浅佐行と共同して本訴を提起していないから当事者適格を欠く、従つて本訴は不適法であるから却下されるべきである。
と述べ、本案の答弁として、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、原告主張事実中
一、の事実は認める。
二、の事実中昭和三十四年二月二日リコール取下の旨告示したことは認めるが、その余は否認する。原告及び訴外湯浅佐行両名の請求代表者が地方自治法第七十四条の第五項に基く異議の審査期間中に署名簿の提出を取下げる旨の取下書を当時の被告委員会委員長宮本仁平に提出したので、同委員長はこれを受理し告示したのである。被告委員会としては請求代表者が署名簿の提出を取下げる旨の意思表示をした以上、何等の審議に及ばず事務的にこれを受理すればよいのである。被告委員会は、右リコール取下告示をした直後委員会を招集したが、右告示を事務局がしたことにつき何等異議もなく審査事務は停止された。
三、の事実中同年七月三日リコール取下告示は無効である旨決定し告示したことは認めるが、右決定は強迫によるものである。原告等は右二月二日付リコール取下告示は事務局員飯田治が勝手にしたものであるから審査を続行せよと強硬に申入れたので、被告委員会を招集したが再審査は否決されたところ、リコール側が一部委員宅に毎日のようにおしかけてうるさく、時に悪質な強迫を加え、終始委員会の業務に干渉し示威運動をし委員会におし入つたりしたので、止むなくリコール取下告示は無効と決定したのである。
四、の事実は認める。
とかように述べた。
理由
よつて先ず原告に本訴請求を維持する利益があるかどうかについて判断する。
原告が川島町長笹本初太郎解職並びに川島町議会解散請求代表者であつたことは争いがなく、原告は右請求が適法に取下げられた旨の被告委員会の決定の取消を訴求するものであるところ、原告等が解職を請求した川島町長笹本初太郎はすでに退職したことは周知の事実であるから、原告の本訴は川島町長解職請求に関する部分について訴の利益を失つたものといわなければならない。
次に川島町議会議員はその大部分が昭和三十四年十二月辞職し、議席を保有するのは三名にすぎずその任期は昭和三十五年二月十日を以つて満了することは原告の自認するところである。右議員の任期満了による一般選挙が昭和三十五年一月十七日行われたことは当裁判所に顕著な事実である。公職選挙法第三十三条第四項但書によれば、町議会の議員の任期満了による選挙の期日前に町議会が解散されたときは、任期満了による選挙の告示はその効力を失う旨規定されているから、新たに解散による選挙が行われる訳であるが、任期満了による選挙が行われた後前任者の任期が満了するまでの間に解散があつた場合については規定はないが、右但書の反対解釈として更に解散による選挙は行わない法意であると解する。けだし、任期満了による選挙と解散による選挙とはその政治的意義を異にするとはいえ、一旦任期満了による選挙によつて住民の意思が表明された以上これを尊重するのが当然であり、無用の手数を省く結果ともなり適当とするからである。そうとすれば、最早改めて解散による選挙は行われなくなつた結果、議会解散請求は解散による選挙が行われない以上その目的を達せられない訳であるから、原告の本訴は川島町議会解散請求に関する部分についても訴の利益を失うに至つたものであるといわなければならない。
そこで、本件訴を不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用の上、主文のとおり判決する。
(裁判官 丸山武夫 松田延雄 三宅純一)